第5回 親の介護を考え始めたら読む 老人ホームでは薬は誰が管理しているの?薬剤師の仕事を分かりやすく解説
「老人ホームへ入居したら、薬は本人が管理するのでしょうか」
「施設の職員が、薬を間違えずに飲ませてくれる?」
「複数の病院から薬をもらっている場合は、どうなるの?」
老人ホームへの入居を考えるご家族にとって、薬の管理は大きな心配事の一つです。
高齢になると、血圧、糖尿病、心臓病、認知症、骨粗しょう症など、複数の病気を治療するために多くの薬を服用している方が少なくありません。
老人ホームでは、一般的に、
医師が薬を処方し、薬局が調剤し、施設職員が日々の服薬を支え、薬剤師が薬の安全性や使用状況を確認する
という形で、多くの専門職が連携しています。
ただし、薬の管理体制は施設の種類や職員配置、利用している医療機関・薬局によって異なります。
今回は、老人ホームで薬がどのように準備され、本人へ渡されるのか、薬剤師がどのような役割を担っているのかを分かりやすく解説します。
老人ホームの薬は、誰か一人が管理するものではありません
老人ホームでの薬の管理は、医師、薬剤師、看護師、介護職員などによるチームで支えられています。
主な役割は次のとおりです。
医師
本人の病状や検査結果、生活状況を確認し、必要な薬を処方します。
体調や副作用、服用の難しさなどに応じて、薬の種類、量、服用回数を見直します。
薬剤師
処方された薬について、次のような点を確認します。
- 同じような薬が重複していないか
- 薬同士の飲み合わせに問題がないか
- 腎臓や肝臓の機能に対して量が適切か
- 飲みにくい薬がないか
- 飲み忘れや残薬がないか
- 眠気、ふらつき、便秘などの副作用がないか
必要に応じて、医師へ処方内容の確認や変更を提案します。
看護師
体温、血圧、食事量、排せつ、意識状態などを確認し、薬を服用した後の体調変化を観察します。
インスリン注射など、医療的な管理が必要な場合にも重要な役割を担います。
介護職員
施設の日常生活の中で、決められた時間に薬を渡し、本人が服用できたかを確認します。
また、眠気、食欲低下、歩行状態の変化など、生活の中で気付いたことを看護師や薬剤師へ伝えます。
厚生労働省の指針でも、高齢者の服薬支援には医師や薬剤師だけでなく、看護師、介護職員、ケアマネジャー、家族などによる情報共有が重要とされています。
老人ホームで薬が届くまでの流れ
施設や契約内容によって違いはありますが、一般的には次のような流れで薬が準備されます。
1.医師が診察して薬を処方する
施設へ医師が定期的に訪問する「訪問診療」を利用する場合があります。
一方、本人がこれまで通っていた病院へ家族や施設職員と通院し、薬を処方してもらうケースもあります。
複数の医療機関を受診している場合は、それぞれの病院から薬が処方されることもあります。
2.薬局が処方内容を確認する
薬剤師は処方箋を受け付けた後、薬の種類、量、飲み合わせ、重複などを確認します。
不明な点や安全上の問題が疑われる場合には、処方した医師へ問い合わせます。
3.薬を飲みやすい形に整える
多くの施設では、薬を朝・昼・夕・寝る前など、1回に服用する分ごとにまとめる「一包化」が利用されています。
薬の袋には一般的に、
- 本人の名前
- 服用日
- 朝食後
- 昼食後
- 夕食後
- 寝る前
などが表示されます。
一包化は服用するタイミングを分かりやすくする方法ですが、すべての薬を一包化できるとは限りません。湿気や光に弱い薬、服用直前まで包装から出さない方がよい薬などは、別に管理されることがあります。
4.薬局から施設へ届ける
調剤された薬は、薬局職員などによって施設へ届けられます。
施設側と薬局側で、薬の内容、日数、追加薬や中止薬の有無などを確認します。
5.施設内で保管・配薬する
施設では、本人ごと、日付ごと、服用時間ごとに薬を整理します。
服用時には本人確認を行い、決められた薬を渡し、服用できたことを確認します。
6.服用後の状態を共有する
飲み忘れ、服用拒否、副作用が疑われる症状、残薬などがあれば、医師、看護師、薬剤師、介護職員の間で共有します。
高齢者では療養環境が変わる際に処方内容や服薬状況が分断されやすいため、入院、退院、施設入居、医療機関の変更時には、薬の情報を継続して引き継ぐことが重要です。
一包化をすれば、飲み間違いは完全に防げる?
一包化は、飲み忘れや飲み間違いを減らすために有効な方法です。
しかし、一包化しているだけで、すべての事故を防げるわけではありません。
例えば、
- 違う入居者の薬を渡してしまう
- 朝の薬を昼に渡してしまう
- 中止になった薬が残っている
- 病院から追加された薬が反映されていない
- 臨時薬と定期薬を重ねて服用する
- 薬の袋から薬がこぼれる
といった可能性があります。
そのため施設では、名前、日付、服用時間、薬の変更内容などを確認する仕組みが必要です。
薬局側でも、一包化の内容だけでなく、処方変更や中止の連絡が施設へ正確に伝わっているかを確認することが重要です。
薬剤師は老人ホームで何をしているの?
薬剤師の仕事は、処方箋どおりに薬を準備して届けることだけではありません。
1.薬の重複や飲み合わせを確認する
高齢者は、内科、整形外科、泌尿器科、眼科など、複数の医療機関を受診していることがあります。
それぞれの病院が他院の処方を十分に把握していないと、似た作用の薬が重複する可能性があります。
薬剤師は、お薬手帳や処方歴、施設からの情報をもとに、薬全体を確認します。
2.飲みやすい方法を考える
本人の状態によっては、
- 錠剤が大きくて飲めない
- 飲み込む力が弱くなった
- 薬の数が多く、途中で嫌になる
- 認知症により服用を拒否する
- 粉薬が口の中に残る
といったことがあります。
薬剤師は、医師や施設職員と相談しながら、
- 服用回数をまとめられないか
- 一包化できないか
- より小さな錠剤へ変更できないか
- 粉薬や液剤などへ変更できないか
- 貼付剤など別の剤形が適切か
を検討します。
薬を砕いたりカプセルを開けたりすると、薬の効き方や安全性が変わることがあるため、自己判断で行ってはいけません。
3.残薬を確認する
残薬とは、飲まずに残っている薬のことです。
残薬が生じる主な理由には、
- 飲み忘れ
- 入院や外泊
- 服用拒否
- 処方変更
- 臨時薬を使用しなかった
- 薬が飲みにくかった
などがあります。
薬剤師は残っている薬を確認し、使用できるものは次回の処方日数を調整するなど、医師と相談して整理します。
4.副作用を確認する
薬の副作用は、検査値だけでなく日常生活の変化として現れることがあります。
例えば、
- 以前より眠っている時間が長い
- ふらつきや転倒が増えた
- 食欲が低下した
- 便秘がひどくなった
- 尿が出にくい
- むくみが強くなった
- 急に落ち着かなくなった
といった変化です。
介護職員や家族からこうした情報を集め、薬が関係していないかを検討します。
5.医師や多職種へ情報を伝える
薬剤師は確認した内容を、医師、看護師、介護職員、ケアマネジャーなどへ伝えます。
処方変更があった場合は、その後の体調や生活状態を確認し、必要に応じて再度医師へ報告します。
厚生労働省は、高齢者では多剤服用や加齢に伴う身体機能の変化により薬物有害事象が起こりやすいため、身体・認知機能、生活環境、服薬状況を多職種で確認し、定期的に処方を見直すことを示しています。
薬が多いほど危険なの?
薬の数が多いことだけで、直ちに悪いとはいえません。
病気を治療するために必要な薬であれば、複数の薬を服用することには意味があります。
問題になるのは、薬の数だけではなく、
- 現在も必要な薬か
- 同じような薬が重なっていないか
- 副作用が出ていないか
- 本人が正しく服用できているか
- 生活の負担になっていないか
という点です。
多くの薬を服用することで、飲み間違いや副作用などの問題が起こりやすくなった状態を「ポリファーマシー」と呼びます。
これは単に「薬が多い」という意味ではありません。
薬を減らすことだけを目的にせず、本人の病状、生活、希望を踏まえて、必要性と安全性を一つずつ確認することが大切です。
入居時には、薬の情報をすべて伝えましょう
老人ホームへの入居時には、現在使用している薬を正確に伝える必要があります。
準備しておきたいものは次のとおりです。
- お薬手帳
- 現在服用している薬
- 薬の説明書
- 受診している医療機関の一覧
- 利用している薬局の情報
- アレルギーや過去の副作用
- 市販薬やサプリメント
- インスリンや目薬、貼り薬、塗り薬
- 必要時だけ使用する薬
市販薬や健康食品も、処方薬の作用に影響することがあります。
本人が自分で購入していた薬やサプリメントも含めて、医師や薬剤師へ伝えましょう。厚生労働省の指針でも、処方薬だけでなく一般用医薬品やサプリメントを含めた服用状況の把握が必要とされています。
病院が変わると、薬も変わる?
老人ホームへ入居すると、これまでのかかりつけ医から、施設と連携する訪問診療医へ変更する場合があります。
医師が変わったからといって、すべての薬が自動的に変更されるわけではありません。
ただし、新しい医師が本人の状態を確認し、
- 現在も必要な薬か
- 同じような薬が重複していないか
- 服用回数を減らせないか
- 腎機能に合った量か
- 施設で安全に管理できるか
などを検討し、処方が見直されることがあります。
入居時は薬を整理する重要な機会です。
これまでの処方経過が分かるお薬手帳や診療情報を準備すると、より安全に引き継ぐことができます。
家族が薬を施設へ持ち込んでもよい?
家族が医療機関から受け取った薬を施設へ持参する場合は、必ず施設職員へ手渡し、内容を確認してもらいましょう。
本人の居室やバッグの中へ直接置くと、
- 本人が重ねて服用する
- 施設側が薬の存在を把握できない
- 中止薬と新しい薬が混在する
- 服用記録に残らない
といった危険があります。
市販薬、目薬、塗り薬、湿布などを持ち込む場合も、事前に施設へ相談してください。
服薬を拒否したときはどうする?
認知症などにより、本人が薬を拒否することがあります。
このとき、無理に口へ入れるだけでは、本人の不安が強くなる可能性があります。
まずは、
- 薬の味や大きさが嫌ではないか
- 口の中が乾燥していないか
- 飲み込む力が低下していないか
- 説明の仕方が合っているか
- 服用時間が本人の生活に合っているか
- 薬による不快な症状がないか
を確認します。
飲めない状態が続く場合は、薬剤師や医師へ相談し、剤形や服用回数、薬そのものの必要性を検討します。
よくある質問
Q1.老人ホームでは、薬を本人が保管しますか?
施設や本人の状態によって異なります。
自分で安全に管理できる方は自己管理を続ける場合もありますが、多くの施設では職員が薬を保管し、服用時に渡します。
入居時に本人の認知機能や服薬状況を確認し、管理方法を決めます。
Q2.薬剤師は毎日施設にいますか?
施設の種類によって異なります。
介護老人保健施設や介護医療院などには薬剤師の配置基準がありますが、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などでは、外部の薬局薬剤師が訪問して関わる場合があります。
Q3.別々の病院の薬を一緒に管理できますか?
多くの場合は可能です。
ただし、すべての医療機関、薬局、施設で薬の情報を共有することが重要です。
できるだけ一冊のお薬手帳に情報をまとめ、利用する薬局を整理すると確認しやすくなります。
Q4.飲みにくい薬は砕いてもらえますか?
薬によって異なります。
砕くことで効き方が変わったり、刺激が強くなったりする薬があります。
必ず薬剤師へ確認し、粉薬、液剤、小さな錠剤などへの変更を医師と相談します。
Q5.薬が余っている場合は捨ててもよいですか?
自己判断で捨てる前に、薬剤師へ相談してください。
使用できる薬であれば処方日数を調整できる場合があります。
ただし、保管状態や使用期限によっては再利用できないこともあります。
Q6.家族は薬の内容を説明してもらえますか?
本人の同意や施設の運用にもよりますが、薬剤師から薬の目的、注意点、変更内容などの説明を受けられる場合があります。
気になることがあれば、施設職員を通じて薬局や薬剤師へ相談しましょう。
薬剤師からひとこと
老人ホームでの薬の管理で最も大切なのは、
薬を間違えずに渡すことだけではなく、薬を飲んだ結果、その人が安心して生活できているかを確認することです。
高齢者では、副作用が「薬の副作用らしい症状」として現れるとは限りません。
眠気、ふらつき、食欲低下、便秘、転倒、認知機能の変化などが、薬の影響によって起きている場合があります。
薬剤師は薬を見ますが、介護職員や看護師は日々の暮らしを見ています。
それぞれの情報をつなぐことで、初めて安全な薬物治療につながります。
ご家族も、
「最近、以前より眠る時間が増えた」
「薬が変わってから食欲が落ちた」
「面会したときに歩き方が違った」
といった小さな変化に気付いたら、施設職員や薬剤師へ伝えてください。
まとめ
老人ホームでの薬は、誰か一人だけが管理するものではありません。
- 医師が診察して薬を処方する
- 薬剤師が重複や飲み合わせを確認する
- 薬局が一包化などの準備をする
- 施設職員が薬を保管し、服用を支援する
- 看護師や介護職員が体調変化を観察する
- 医師、看護師、介護職員、薬剤師が情報を共有する
というチームでの管理が基本です。
施設を見学するときには、次の点を確認してみましょう。
- 薬は誰が保管するのか
- 服用したことをどのように確認するのか
- 処方変更はどのように共有されるのか
- 薬剤師はどのくらいの頻度で関わるのか
- 飲み忘れや残薬があった場合にどう対応するのか
- 副作用が疑われるとき、誰へ連絡するのか
- 複数の病院の薬をまとめて確認できるか
薬の管理体制を知ることは、施設を安心して選ぶための重要なポイントです。
次回は、
「老人ホームで病気になったらどうする?病院との連携を解説」
について、訪問診療、急変時の対応、救急搬送、入院中の施設費用などを分かりやすく解説します。
※本記事は一般的な情報をまとめたものです。薬の管理方法、薬剤師の関わり方、医療・看護体制は施設によって異なります。薬を自己判断で変更・中止・粉砕せず、必ず医師、薬剤師、施設職員へご相談ください。
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